BPSクリニカル認定コース下顎吸着義歯 プライベートハンズオンセミナー

セミナー事前申請にて法人負担を行った方のセミナー受講レポートです。是非ご確認ください。

令和5年8月31日 9月7日 コウノ歯科医院所属 歯科医師

内容

BPS(Biofunctional Prosthetic System=生体機能的補綴システム)の考えのもと主に下顎総義歯の吸着を目的としたセミナーを受けた。

BPSとは、Biofunctional Prosthetic System(生体機能的補綴システム)の略で、イボクラールビデント社が開発した、世界基準の「よく噛める」「痛くない」「外れない」「美しい」を実現する高品質な入れ歯製作システムである。BPSデンチャーシステムは、製作工程が綿密にシステム化された入れ歯製作法である。製作手順がシステム化されていることで歯科医師と歯科技工士のコミュニケーション・情報共有が効率的で正確に行うことができ、患者のご希望を詳細に反映することができる。Ivoclar Vivadent社によるトレーニングと試験を経て、一定水準を満たした歯科医師、歯科技工士のみ、BPS公認歯科医師、BPS公認歯科技工士としてBPSデンチャーを作製することができる。

セミナーは講義と実習形式に分けられ、大部分の時間は実際の無歯顎のデモ患者に対し実習を行うものであった。講義の内容と実習の様子を報告する。

【診査診断】

下顎無歯顎の患者の診査は以下の項目がある。

開口時の舌後退

 開口時に舌線が上に上がるかどうか

 上がるほうが困難

顎堤形態

 見た目で判断 不動粘膜や正体の位置も確認

 顎堤が出ていれば良

 へこんでいれば不良

舌下ひだ部のスポンジ状組織の形態

 顎堤よりせりあがって見えれば良好

 ストッパーが包まれるくらいの柔らかさなら中等度

 全く包まれなければ不良 

後顎舌骨筋下部の延長の余裕

 デンタルミラーを当該部に挿入して嚥下してもらう

 嚥下時にミラーがとどまれば良

 押し出されば中等度

 入らなけば不良

レトロモラーパッドの形態

 前方部に線維性の組織があるかどうか あれば良

 サイズ 近遠心径が10㎜から15㎜で中等度 それより大きければ良 小さければ不良

顎間関係

 Class2かClass3か

下顎位

正中にずれがあるかどうか

顎関節の触診

 開閉口時の動きを見ておく 動画にとっても良い

判定は厳しく行ったほうが良い。

【概形印象】

概形印象の目的は口腔内の義歯の安定と維持のため、基礎となる口腔内構造を記録することにある。そのため、若干過延長となる印象域を採得することを目的とする。

無歯顎のすべての情報を記録することができ、最良の状態で印象採得できるように設計された後縁部のフレームのないカットバックトレーを使用する。

印象材は2種類を使用する。1つは低粘度で流動性が高いシリンジタイプ、もう1つは高い粘度を持つトレータイプを用いる。

●手技

①頬や口唇を圧排してもらい、サイドポジションからシリンジマテリアルを顎舌骨筋線後方部に挿入し舌下部まで注入、その後左右レトロモラーパッドから正中に向かって歯肉頬移行部に注入(図1)

②左手で下唇を抑えつつトレーを回転しながら挿入し位置づけ、舌を前方に出してもらいながら前方部を圧接して7秒保持(図2)

③バックポジションから方向に移動し臼歯部を5mmほど押す(図3)

④右手でノブを持ち左手で唇をつまんで閉じてくる(図4)

⑤そのまま閉口状態で硬化を待つ

図1

図2

図3

図4

理想的には下記の構造が印象体に再現できていることが重要

レトロモラーパッド

顎舌骨筋線

可動粘膜と非可動粘膜との間を含んだ口腔前庭部

【義歯のアウトライン】

 概形印象したものに義歯のアウトラインを引いていく。

 最初にレトロモラーパッドをマークする。

頬側は染谷の筋を避け外斜線の内側一回目の粘膜反転部とする。

舌側は後方は顎舌骨筋線より2㎜後方よりスタートし仮想咬合平面に対し70~90度変曲点に向かう。前方は骨の突出部をなぞってつなげていく。

【機能印象】

機能印象はアウトラインに沿って作製したナソメーターという装置を使って行う。ナソメーターは無歯顎患者の機能印象と顎間関係の記録を同時にとることのできる装置である。

機能印象の目的は、機密性の高い内面封鎖を獲得するために粘膜面を正確に再現すること、舌と口腔周囲の動きに調和した義歯床縁の決定すること、機能時の頬や唇と隙間なく適合することで辺縁封鎖性を確立することである。

印象材は2種類を使用する。辺縁はヘビーボディのシリコンを用いる。内面はインジェクションタイプを用いる。

●手技

①フィットチェッカーを用いトレーの適合をチェックし必要に応じて調整

②上下顎にトレーを入れ咬合させる。咬合平面がある程度ずれていないかチェック

③トレー辺縁にヘビーボディをのせ口腔内に挿入

④人差し指を吸うように指示

⑤閉口させた状態で軽く咬合させながら、唇をすぼめたり、口角を引いたりする運動を数回繰り返させる(ウ イ の動き)

舌を突出させ舌尖で口唇を左右に舐めてもらう(図参照)

⑥閉口状態のまま硬化を待つ

⑦内面にインジェクションをのせ内面の印象を採得する 機能運動は⑤と同じ

⑧印象体撤去時に吸着を確認

機能運動

人差し指をストローを吸うように軽く吸う

ウ の動き

イ の動き

舌突出

上唇をペロペロ

理想的には下記の構造が印象体に再現できていることが重要

レトロモラーパッド

顎舌骨筋線

可動粘膜と非可動粘膜との間を含んだ口腔前庭部

機能運動を妨げない辺縁

気泡空隙のない印象体内面

印象材からトレーの露出干渉が無いこと

感想

今回のセミナーでは下顎総義歯の吸着に必要な知識と主義を学ぶことができた。一番重要なことは概形印象でいかに解剖学的構造が採得されているかということであった。正確な診査用模型でなければ正確なトレーのアウトラインも引けないためその後のすべての処置を正確にやったとしても吸着を得ることが難しくなる。

 もちろん普段意識して診療を行っているが正確な印象をとる主義をあらためて1から学ぶことができたので大変勉強になった。

 日々の診療に活かして患者満足度の高い治療を提供していきたい。

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